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未来を描く能力

 まもなオバマ大統領が就任します。彼が大統領になったとき、何を語るのか?みんなが注目するのは、そこに「未来」を確かめたいと期待するからなのでしょう。しかし、カギカッコ付きで「未来」と表現したように、オバマ新大統領が語るのはアメリカにとっての「未来」であるのも事実です。それはイスラエルによるガザへの攻撃・殺戮に対して、アメリカという国がどのような態度をとったのかを思い起こせばわかるはずです。それでもオバマ新大統領の演説に期待してしまうのは、私たち自身が日本という小さな国の「未来」すら描けなくなっているからなのかもしれません。
 そのような状況の中で、若い受験生の皆さんは、自分だけでなく社会・世界について、どのような未来を描いているのでしょうか?この未来はカギカッコのない、つまり異なる他者とも共有可能な未来です。「いきなり、そんなこと言われても・・・」ととまどう受験生も多いでしょう。しかし、個人が現実に押し流されてばかりの社会だからこそ、夢や理念という言葉でも語られる未来を描くことが必要なのです。駿台の直前講習「慶大法プレ」では、そのような趣旨の問題をつくりました。もちろん具体的な内容はヒミツですが・・・
 10年位前にも、同じような問題意識で「コンセプチュアル・スキル」という問題をつくったことがあります。ちょっと長いけど、そのときの解答例を以下に掲載します。読めばわかると思いますが、未来を描くとはより多くの人たちが共有できる価値を生み出すことです。その価値とは何か?、どのようにその能力を身につけていくのか?など、アレコレ考えてみましょう。

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 コンセプチュアル・スキルとは複雑な物事の本質を凝縮して問題をえぐり出すことのできる能力である。これを身につけることで、ゴール(世の中に与えたい自分の価値)を主体的に決定できる。それゆえに、学生にイノベーター(価値を作ることのできる人)になってもらいたいと考える筆者は、学生がコンセプチュアル・スキルを身につけることを重視する。ところが、現実の学生は一番うまい方法にいかに近づくのかを計算するテクニカル・スキルを身につけようとしてしまう。学生は働いた経験がないので仕方のない面もあるが、自分で問題を立てることの難しさや楽しさ、社会的な意味などをわかってもらう授業を通じて、学生がコンセプチュアル・スキルを身につけることを筆者は試みている。
 明言してはいないが、筆者の主張の背景には一つの時代認識があるように思われる。現代が不確実性の時代と呼ばれるようになって久しい。不確実というのはそれまで価値があるとされてきたものが無価値になり、価値がないとされてきたものが重視されるような傾向を指す。そうした時代においては既成の価値を身につけるのではなく、それらにしばられず自由に考え新たな価値を見つけ出すような知的心構えが必要になる。それがビジネスチャンスや社会の変革・進歩につながることも期待できることから、私も筆者と同様に学生がコンセプチエアル・スキルを身につけていくことを重視したい。
 しかし、筆者も現状を指摘するように、それが容易でないことも事実である。とりわけ、多くの学生にとって価値というのがきわめて自己中心的で、世の中との接点を欠いている点が深刻である。ゴールを見つけられないのはスキルがないからだけでなく、自分の価値を提供する世の中への関心がそもそもないからではないか。
 その意味では学生にコンセプチュアル・スキルを身につけさせる試みは、複雑な物事の本質を凝縮して問題をえぐり出すスキルの習得にとどまらず、世の中に対する関心をそれぞれの学生の中に回復させていくものでなければならない。筆者がフィールドワークを重視したり、さまざまな人生を歩んできた人を呼んで講演会を開いたりするのも、同様の趣旨からだろう。惜しむらくは、そうした世の中の物事や人々との出会いが大学で初めてもたらされる点であり、もっと早い段階での出会いが必要だと私は考える。
by sosronbun | 2009-01-20 09:52 | 社会科学系論文


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