カテゴリ:医系論文( 18 )

医学部の小論文・面接①

 医学部の小論文や面接では、医学・医療に関するトピックスが取り上げられることも多いのですが、昨年度入試で急増したのが妊産婦の「たらい回し」です。今年度も各地で「たらい回し」事事案が起きたことから、小論文や面接で各自の認識や考えを聞かれることもあると思うので、頭の中を整理しておきましょう。
 ひとくちに「たらい回し」といっても、実際にはさまざまで一律に論じることはできません。たとえば、2006年の奈良県の事案では、妊産婦を県外に搬送せざるを得ず、周産期母子医療センターの不備が問題になりました。また、2008年の東京都の事案は、その周産期母子医療センターがいったんは受け入れを拒否したもので、産科と救急との連携不足が問題となりました。さらに、2008年の札幌市の事案は、NICU(新生児集中治療室)の満床や不備により、病院側が搬送要請を断らざるを得なかったことが明らかになりました。
 妊産婦の「たらい回し」についてたずねられた場合、どの事案を想定するかによって「解」は大きく異なります。こういう複雑なテーマの場合は、問題を整理するとともに対象をしぼり込んで、それにもっとも適切な「解」を示すことが大切です。産科と救急との連携不足が問題となった事案に対して、NICUの増床を主張するのは明らかにミスマッチですよね、
 そもそも医療や医学は、この問題に限らずに絶対的な「解」が存在しない場合が少なくありません。結論を急がず、何が問題なのかを冷静に分析し、それぞれに問題に応じた対処を考えていく柔軟さが必要です。その意味で「すっきり答える」ことではなく「正しく悩む」ことが医学部の小論文・面接の基本なのかもしれません。
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by sosronbun | 2009-02-12 23:25 | 医系論文

死を求める権利

 結構さぼってたので、連続で記事を投稿します。ある新聞社の雑誌に原稿を依頼されていて、それを書く前のウォーミングアップでもあります。
 昨日のNHKのクローズアップ現代は、人工呼吸器をはずすことを求めたALS患者を取り上げていました。ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは筋肉をつかさどる神経が病んでしまう難病です。症状は不可逆的に進行し、人工呼吸器を付けて延命する患者さんも少なくありません。その一人がかかりつけの病院に対して、人工呼吸器をはずして死ぬことを求める要望書をまとめました。これを病院はどのように受け止めたのか・・・という内容です。
 夕食準備をしながらだったので、しっかり見ることができなかったのですが、終わったあと「う~ん」とうなり、しばらく考え込まざるを得ない内容でした。それこそ二項対立的に判断できない難問です。第三者も参加した病院の倫理委員会は「患者の要望を受け止めるべし」とする意見をまとめましたが、最終的には、病院はこの意見を受け容れませんでした。いくら本人の要望に基づくとはいえ、人工呼吸器をはずすことは殺人罪または嘱託殺人罪のおそれが強いからです。過去にも、ALS患者の息子の要望を受け容れて人工呼吸器を外した母親が、嘱託殺人で有罪となる判決もありました。
 ゲストの柳田邦男さんは「個人的な死」という表現で、人間の死を一律的に定める刑法等の現行法への疑問をあげていました。しかし、法律とは客観的な基準を定めるもので、「個人的な死」のような人により異なる基準を設けることが苦手で、これを嫌う傾向すらあります。唯一の例外ともいえるのが脳死・臓器移植法で、本人と家族の同意という主観的な要素を脳死の正当化事由に盛り込んでいます。
 同様に本人の意思に基づき死を認めるというのは短絡的すぎる結論です。脳死・臓器移植法でも家族の同意を要件としているように、死は個人的であるとともに関係的なものだからです。また、本人の意思が終始一貫しているわけではありません。人間関係だけでなく、患者に対する社会的支援の有無や程度など環境によっても大きく左右されるでしょう。さらに、現状のように社会的支援が不十分な中で死を求める権利を認めることは、周囲が患者に死を強制することにもなりかねません。
 このような疑問を書き連ねるときりがなく、出口がまったく見えないので「う~ん」とうなってしまったのです。高知大学医学部のAO入試では「安楽死」がテーマに出ました。医学部で論文や面接を使う人は、「死を求める権利」をどう考えますか?法学部ではないので簡単に二項対立的な答えを出すのではなく、どこがどのように難しいのかを理解するとともに、その難しさに向き合い・悩みこむことが「正解」なのかもしれません。
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by sosronbun | 2009-02-03 17:29 | 医系論文

医学部受験のための・・・

 センター試験まで、あと10日。そんな受験生をつかまえて、以下のテレビ番組を見なさい…というのは、さすがのボクも気が引けるのですが、紹介してしまいます。

 ■日時 2009年1月13日(日)
 ■タイトル NHK プロフェッショナル仕事の流儀 詳細はこちら
         「“いい人生やった” その一言のために~診療所医師・中村伸一~」

 サッカーの試合の半分、たった45分の番組です。たかが45分か、されど45分かは人それぞれでしょう。ただ、入試直前のてんぱった時期だからこそ、自分が進む道についてあらためて考え、医学部受験という難関にのぞむ強い気持ちく持つべきだと、ボクは思うのです。
 テレビではありませんが、今日(1/6)の朝日新聞・朝刊も一読をすすめます。「明日を見つける―へこむなニッポン」という連載の第5回ですが、「地域のお産を守りたい」というタイトルで、産科医ゼロの岩手県遠野市の取り組み(市の施設に助産院を設けて、産科医のいる医療機関とも連携すること)を紹介しています。市長の「我々の身の丈でできる」という言葉は、医療だけではなく他の問題にも通じるものがあると思います。
 たまたまですが、「私の視点」には東京藝術大学准教授の毛利喜孝さんが「新たな暮らし方模索を」という一文を寄せています。「自律した新しいライフスタイルと経済制度作り上げること」を希望する彼の論述にも、「身の丈」という視点が含まれているように思われます。こちらの記事は、文系小論文を受験で使う人は必読です。
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by sosronbun | 2009-01-06 17:58 | 医系論文

医学部受験のためのTVガイド

 受験が近づき、テレビなんか見ているヒマないかもしれませんが・・・
 医学部受験生は今月のNNNドキュメントは要チェックです。以下に日時、タイトルだけを簡単に紹介しましょう。

 ■日時 2008年12月7日(日)25:30~
 ■タイトル トリアージ 命の選別-秋葉原殺傷事件の現場から-

 ■日時 2008年12月14日(日)25:35~ ※クラブW杯の中継延長の場合は変更の可能性あり
 ■タイトル いのちに寄り添う-お坊さんがいる病院-

 詳細は こちら

 これらの番組から知識を得るのではなく、医学・医療についてアレコレ考えるきっかけにしてください。自分の将来に横たわる「難問」と向き合うことは、すごくタイヘンな受験を乗りこえるエネルギーになるはずです。
 
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by sosronbun | 2008-12-06 00:57 | 医系論文

赤ちゃんポスト

 医学部の中にはグループ討論を入試科目に入れているところもあります。これに対応するため、医系論文の授業終了後に模擬グループ討論をやってみました。討論のやり方にはボクのノウハウが含まれるので「ひみつ」ですが、テーマくらいは公開します。
 今回のテーマは、2008年度入試でもっとも出題が多かった「赤ちゃんポスト」です。「赤ちゃんポスト」は2007年5月に熊本市内の病院が開設したもので、「こうのとりのゆりかご」が正式名称です。なお、駿台・医系論文のテキストにも関連記事を掲載してあります。
 グループ討論として取り上げたため、あえて賛成または反対の立場で論じてもらいました。一般的に、賛成派は何よりも赤ちゃんの救命を重視します。これに対して、反対派は親の無責任とその拡大を懸念します。いずれにも「理」があり、簡単に決着できない難問です。
 討論を続けていくと、いくつかの重要な論点がみえてきます。たとえば、親の責任を明確にするために、「赤ちゃんポスト」の利用は匿名ではなく実名にしたらどうかとの意見が出ました。単に賛否と根拠をあげるだけにとどまらず、こうした個別具体的な議論に入っていくことは、討論がうまく展開していることを表しています。
 ただし、賛成派の場合、簡単に実名制を受け入れてはいけません。そもそも「赤ちゃんポスト」の利用を匿名としたのはアクセシビリティ(利用可能性)を高めるためです。実名制は利用の妨げとなり、匿名制ならば助けられた赤ちゃんの命を奪うおそれもあるのです。賛成派の最大の根拠は赤ちゃんの救命です。それを損ないかねない「誘い」に乗ってはいけません。
 大学が「赤ちゃんポスト」を出題したのは、「命を救う」という医療の目的に対する理解・意欲の有無・程度をはかりたいからなのかもしれません。だから、反対派も親の無責任を糾弾するだけではなく、「赤ちゃんポスト」以外に救命できる道を探り、提示しなければなりません。賛成・反対のいずれの立場であっても、育児放棄、虐待、子殺しなどの災難から何とかして赤ちゃんを助け出したいという思いは同じです。
 そうした熱意に基づき、冷静に議論を進めていけるか否かが、グループ討論の成否を決めます。次回もお楽しみに!
 
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by sosronbun | 2008-11-16 22:59 | 医系論文

医学部突破レクチャー in 仙台

 今週の金曜日は仙台で医系論文の授業なのですが、翌日の午前は「医学部突破レクチャー」というイベントがあります(詳しくはリンクをクリックしてください)。その準備で夜中まで残業中です。 
 医系論文のキーワードを取り上げ、関連出題を紹介しつつ、解答のポイントを解説します。首都圏や北海道の皆さんは参加不能だと思いますが、仙台校の皆さんはぜひ参加してくださいね。
 でも、11/1と11/2は防衛医大の入試(一次試験)があります。それを受ける人たちも参加不能ですね。その人たちはがんばってそっちの方を突破し、小論文と面接のある二次試験に進んでください。
 ボクもおびただしい「仕事の山」を一日も早く突破したいものです。
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by sosronbun | 2008-10-29 01:51 | 医系論文

チュートリアル教育

 弘前大学医学部のAO入試では、医学部で行われているチュートリアル教育の紙上版のようなテストが実施されるそうです。入試要綱ではこれを「ケーススタディの自学自習」と表記しています。そもそもチュートリアル教育とは何かがわからない人もいるかもしれません。そこで、この大学で実際に使用されたシナリオの一部を以下に紹介しましょう。

 「中学2年生の弘子さんは、部活でソフトテニス部に所属しています。弘子さんは牛乳や肉が嫌いなど食べ物に好き嫌いがあり、また運動の後にペットボトルの炭酸飲料を飲み過ぎて、あまり食事ができないこともありました。……この頃はすぐに疲れてしまい、立ち止まって休むことさえあります。
 とうとう部活の練習中に気分が悪くなり、保健室で休憩することになりました。保健室の先生は弘子さんの顔色をみて医者に行くようにといいました。昔から顔色は白いほうでしたが、そう言えば「この頃少し顔色が悪い」と皆から言われていました。
 次の日、弘子さんはお母さんと一緒に在府内科小児科へ行きました。診察室にいたのは男の先生で、初潮の時期や生理の期間など、中学生の女の子には聞けないようなことを平気で聞きます。それに指の爪をみて「きれいな爪だね」と言った時には,弘子さんは背筋がぞっとしました。……」
(中根明夫「「チュートリアル教育」-勉強の仕方を学ぶ-」「弘前大学における教育」-最近のトピックス-)
 
 皆さんはこの中にどのような問題を発見したでしょうか?求められているのは主体的な問題発見であり正解はありません。「正解」は一人ひとりの頭の中にあるのです。
 これは問題の[発見→分析→解決]の力をつける総合学習にも近いものといえます。ゆとり教育や総合学習は学力低下批判にさらされましたが、それにより、こうした知的探求方法に習熟する機会を子どもたちが失ったことはかえすがえすも残念です。
 慶大法2006年の出題は、若者の「問う能力」の欠落を指摘し、これを「知的難民」と表現した課題文が出題されました。チュートリアル教育が必要なのは医学部だけではありません。
 
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by sosronbun | 2008-09-04 16:56 | 医系論文

「大野病院事件」に判決

 医療事故を起こした産婦人科医の刑事責任が問われた裁判の判決が出ました。新聞、テレビ、ネットあらゆるメディアで大きく取り上げているので、医学部を受験する人は要チェックです。「責任」という大きなテーマを考えると、社会科学系学部の受験生もスルーしない方が良いと思います。
 事故でなくなった患者さんやご家族のことを考えると、担当医師の無罪判決を素直に喜ぶことはできません。しかし、このような形で医師の刑事責任を問うことは、医療にとってマイナスになるとボクは考えます。この問題に限らず最近は厳罰化を求める風潮が強いのですが、誤りを犯した人を厳罰に処するだけでは何も解決しません。なぜ事故・事件が起きたのか原因をきちんと解明して、再発を未然防止することが何よりも重要なことでは?
 医師や病院は刑事事件として無罪になっても、当然に民事責任を問われます。決して放免になるわけではありません。さらに、担当医師は患者を死なせてしまったことに対して、刑事でも民事でもない医師・人間としての責任を痛感しているはずです。今日の判決をめぐり、いろいろな議論が交わされることでしょう。それらをしっかり理解して、自分自身の考えを持つようにしましょう。
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by sosronbun | 2008-08-20 18:19 | 医系論文

代理出産をめぐって

 授業でも取り上げたことのある代理出産で、かなり問題ありの事案が報道されています。ちなみに毎日新聞は「インド女性に依頼の夫婦、離婚し女児帰国できず」とのタイトルで取り上げています。記事によれば、代理出産した別のインド女性の卵子の提供を受けていて、カギカッコつきの「代理出産」のようです。自分の子どもがほしい気持ちはわかりますが、妻以外の卵子を「利用」するのは自己決定ではなく「わがまま」というべきかもしれませんね。代理出産については、これを原則禁止とする法規制を求めて、日本学術会議が提言をまとめています(2008年4月)。以下のサイトにあるので一読してみてください。報告書はボリュームがあるので4月16日付けの「回答」だけでも十分です。

 ○生殖補助医療の在り方検討委員会
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by sosronbun | 2008-08-08 00:08 | 医系論文

医系論文問題集を更新

 医系論文の問題集を更新しました。自治医科大学(2008年度)、慶應大学医学部(2006―2008年度)などです。それと、一部の問題に「解答のヒント」をつけています。夏休み中の自学自習に役立ててくださいね。なお、この問題集はボクの授業の受講生用なので、授業の際に示したユーザー名とパスワードが必要になります。

 ○医系論文問題集
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by sosronbun | 2008-07-31 10:32 | 医系論文