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アトム的個人主義

 冬期講習第2日目は小テストを行いました。その解説の中で「アトム的個人主義」のことを取り上げました。ボクの世代はアトムといえば鉄腕アトムですが(最近「プルート」という漫画にもアトムが登場するので、たぶん某首相の反応も同じでしょう)、アトムとは「原子」のことで、他者とつながらず「個人」がバラバラに生きるさまを象徴した表現です。
 「原子」は決してそのままでは「分子」にはなりません。そのように「個人」が「分子」でないこと、つまり関係性や社会性を欠くことへの問題意識を、アトム的個人主義という言葉は秘めているのです。かつて、この言葉を用いた論文試験が九州大学法学部でありました。課題文の筆者が指摘するアトム的個人主義の問題点を、ボクは解答例の中で以下のように解釈・表現しています。

 そうした状況の中では個人を包み込む装置がないため、個人の人権の保障はいきおい国家が担うことになる。また、社会との関係の中で個人が自律性を育てていくような機会がないことから、個人は国家に対して必要以上に依存するだろう。その結果、国家は国民の生殺与奪権をにぎり、全体主義の条件が整うのである。

 簡潔に表現するならば、<アトム的個人主義→全体主義>ということなのですが、一つの問題意識としておぼえておいてください。なお、このときの出題では、アトム的個人主義に対抗する概念として「間人主義」をあげています。これは浜口恵俊さんという社会学者が1980年代前半に提唱したものですが、今はあまり使われていません。グーグルで検索してもヒット件数は、ボクの名前の検索件数よりも少ないくらいです。
 このアトム的個人主義と間人主義については、千葉大学医学部の2008年後期試験で少し形を変えて出題されています。そこではアトム的自己という言葉が使われ、「周囲と切り離しがたい関係により結ばれた存在」、いわば関係的自己という自己観が対置されています。間人主義も関係的自己も同じで、人間は他者とつながることによって生きるという当たり前のことを説くものです。
 それを、わざわざ説かなければならないほど、現代社会におけるアトムの病理は深刻なのです。
by sosronbun | 2008-12-16 23:30 | 社会科学系論文


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