次の読みもののテーマは「自己決定」です。
「自己決定」とは他人に危害や迷惑をかけない限り何をしてもよいというものだが、危害や迷惑が何であるのか明確ではない。危害の直接性・間接性と同様に、それが意図したものであるか否かも基準とはならない。他方、「自己決定」による他者への迷惑が不可避なものについて、どこまで寛容であるべきかが不明である。迷惑が不可避である面をみると、「自己決定」という主張の一部は「迷惑をかける権利」だったとも言える。いずれにしても「自己決定」の原理自体はその範囲について何もいわず、判断基準を示していない。 以上が筆者の問題提起だが、「自己決定」の内容や範囲が不明確であることは、この主張や権利の性格によるものであり仕方がない。そもそも「自己決定」とは自己の尊厳のために私事を決定することである。何を自己の尊厳と考えるか、「自己決定」の内容は個人の性格、関心、環境等により大きく異なる。たとえば、プライバシーの権利も「自己決定」の一つだが、何を私事の秘密として保護するのか一般的な定義はできない。また、相手によっても「自己決定」の内容、範囲は異なる。信頼する相手に対しては開示しても、他の人に秘密にすることはよくある。それが一般に開示されたときプライバシー侵害との主張になるのは、「自己決定」の範囲が相手によっても左右されることを象徴している。 「具体的に何を認め、何を認めないのか」は一般的に決定、表現できるようなものではなく、「自己決定」が主張される領域ごとに判断しなければならない。医師と患者という権力関係における「自己決定」と、禁煙と嫌煙という平等な個人間における「自己決定」では内容と範囲は大きく異なる。権力関係においてはとりわけ一方の尊厳が脅かされていることが多いため、「自己決定」を十分に保障する必要性が高い。たとえば、医師は患者について多くの個人情報をもつため、医師の診断、治療に従わざるを得ない患者も多い。この権力関係が医療ミスや過剰な医療費の一因となってきたことは否定できない。ここでは医師側の迷惑よりも、患者の「自己決定」を考慮して線を引いていかなければならない。 「自己決定」の内容、範囲は領域を特定することで明確にできる。医師と患者との関係では、病状や治療方法を患者に十分に説明し、その同意を得ながら医療を行うインフォームド・コンセントが「自己決定」の内容である。患者に対する説明を担保するため、カルテの原則開示も行われている。例外的に非開示とする場合もあり「自己決定」にも限界はあるが、事例の積み重ねにより範囲は明確になりつつある。「自己決定」は多様であるがゆえに、こうした個別の領域での制度づくりや社会的合意の積み重ねが重要になる。筆者の主張がその趣旨を離れて「自己決定」に消極的な評価を生み出し、「自己決定」の明確化に向けた努力を無にすることを危惧する。
by sosronbun
| 2008-02-16 12:35
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